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「火花」における神谷の言動と又吉直樹氏の手紙についての考察

又吉直樹さんの火花

 

僕達は最低でも三秒に一度の間隔で面白いことを言い続けなければ、ただ何かを話しているだけの二人になってしまうのだけど、三秒に一度の間隔で無理に面白いことを言おうとすると、面白くない人と思われる危険性が高過ぎるので、敢えて無謀な勝負はせず、あからさまに不本意であるとい表情を浮かべながら与えられた持ち時間をやり過ごそうとしていた。

スパークスというコンビで芸人をやっている徳永は、ある花火大会での漫才の仕事で神谷に出会う。

神谷24歳、徳永20歳。

初めてできた先輩と師弟関係を結んだ徳永。

この小説を、又吉さんはどんな気持ちで書いたのだろうか。

もとい、誰のことを思って書いたのだろうか。

神谷という人物は非常に芯が強く「自分が求める笑い」を徹底して追求する男である。

それに対して徳永は、世間体を気にして「周りの求める笑い」を提供したいと思っている。

根本的に相容れない二人だが、呼び出せばすぐに会いに行くような関係。笑いに貪欲でお笑いが好きなのは二人とも同じ。

 

又吉直樹さんの「火花」は、世間体を気にせず自由でありのままに生きる神谷と、どうしようもなくその人に惹かれてゆく徳永の二人の物語だ。

※以下、ネタバレはしませんが作中の台詞を多く引用しています。読む際にはご注意ください。

不真面目で適当なようで、すごく心に刺さる言葉の連発

この「火花」では神谷によって多くの名言のような格言のような言葉が生まれている。

いくつか要約して紹介したい。

一つだけの基準を持って何かを測ろうとすると目がくらむ。例えば「共感」は心地よく依存しやすい強い感覚ではあるが飛び抜けて面白いものはない。

「共感」によっては新しいものは何も生まれない。

だから創作に関わる人間はどこかでそれを捨てなければならない。

同じようなことを、次の文章でも言っていました。

新しい発想は刺激的な快感をもたらすが、所詮は途上。それが確立するまで待てばもっと面白いのに、快感だけを求めると衰退する。

みんな目新しいものに飛びついていくが、すぐ飽きてしまうのは確立するまで待てないから。

これ、きっとインスタ映えとかもそうだと思う。

単純に「面白いから」だけでは何も生まれてこない。

一見すると独特に見えても、それがどこかで流行っているのであれば、それがいかに少数派かつ奇抜であったとしても、個性とは言えない。

これもするどい意見。

たとえば、ファッションなんかがその最たる例。

個性的に見えても、結局のところ着始めた人が存在するのだからそれは個性ではない。

本当に個性的な服を着たいなら、作るところから始めなければならない。

神谷の生き方は真似できない。でも少し憧れる

「火花」のストーリーについてはネタバレになるので今回は触れないが、神谷の考え方については触れさせていただきたい。

作中にこんな言葉がある。

ネットでな、他人のこと人間の屑みたいに書く奴いっぱいおるやん。作品とか発言に対する正当な批評やったら、しゃあないやん。それでも食らったら痛いけどな。

《中略》

だけどな、それがそいつの、その夜、生き延びるための唯一の方法なんやったら、やったらいいと思うねん。きついけど耐えるわ。俺が一番傷つくことを考え抜いて書き込んだらええねん。めっちゃ腹立つけどな。でも、ちゃんと腹立ったらなあかんと思うねん。受け流すんじゃなくて、気持ちわかるとか子供騙しの嘘はいて、せこい共感促して、仲間の仮面被って許されようとするんじゃなくて…

この台詞の深さ、わかるだろうか。

彼はどこまでも真面目なのだ。

何を持って真面目と定義するのかは人によって様々だと思うが、神谷は誰一人として他人を差別しないその姿勢において、非常に真面目である。

赤ちゃんに対しても俳句で笑わせようとする。

この真面目さは偉大だ。

 

この「神谷」には果たして又吉さんの心の内が投影されているのか。

それとも「徳永」のほうか。

わたしはそこがすごく気になる。

あとがきマニアのわたしが泣いた「芥川龍之介への手紙」

わたしが初めて「火花」を読んだのは芥川賞を受賞した直後のこと。

そのときはまだ文庫版も出ていなかったのでハードカバーを知人に借りて読んだ。

今回、手元に置いておきたいと思い文庫版を購入したわけだが、文庫化にあたり「芥川龍之介への手紙」が収録されていたので今回読むことができた。

9ページほどに又吉さんの芥川先生に対する手紙が残されているのだが、わたしは心の底からこの手紙を読めたことを嬉しく思った。

とくに、最後の5行。

ここに又吉さんの人柄というか「らしさ」が溢れている。

静かな文章であるのに胸の中にじわじわと広がっていく暖かな気持ちが、言葉にできない感動に代わり、わたしは涙した。

上手く言えなくて申し訳ないのだが、この気持ちを誰かに知ってほしい。

だから、最後に手紙の終わり5行を載せておきます。

どうか、この静かで美しい文章を心に持ち帰ってください。

受賞会見の時、「あなたは僕のような髪型は嫌いだと思います」というようなことを言いましたが、それ以上に、初めての手紙で一方的に自分の話を長々と書き連ねる僕のような者を、あなたは嫌いだと思います。

気を付けていたのですが、楽しくて長くなりました。失礼いたしました。でも、また書きます。明日は用事があるので、明後日、また書きます。

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