突然だが、全国の、いや、全世界のアンチ村上春樹に言いたい。
村上春樹作品のおもしろさを理解できないとは何事であるか?
なぜこれほどまでに、村上春樹氏に対する好みが分かれるのか、不思議に思うところではあるのだが、まぁ人それぞれ好みが異なるのは当たり前だし、正直仕方のないことだと思う。
ただし、読まず嫌いのそこのあなた。
読まず嫌いなのは許せないので、これからここに述べるわたしから村上春樹氏への愛を感じて、一度でいいから村上作品に手を伸ばしてほしい。
読んでも嫌いだったなら、それは仕方ないから許す。
なぜアンチ村上春樹が多いのか
そもそも村上春樹作品に対して、なぜこれほどまで好みが分かれるのだろうか。
たしかに現実世界ではありえない出来事の描写も多いが、想像できないほどではないし、むしろ内容としては難しい部分はない。
謎の特殊能力を持った不審者は多数登場するが、それは「あんパンなのにしゃべる上に顔交換ができるアンパンマン」や「3分しか戦えないウルトラマン」と同じで、受け入れてしまえばなんの違和感もないのだ。
だとしたら、原因は村上春樹氏独特の語り口調、いわゆる「村上節」にあるのではないか。
つまり、村上春樹氏の作品から、村上春樹らしさ(村上節)を抜き取ってしまえば、誰でも読みやすい作品になるのではないだろうか。
ただし、村上春樹ファンのわたしは思う。
村上節を抜き取ってしまえば、それはもう誰でも書けるただのお話と化してしまうだろう。
きっとそうなるに違いない。
そう結論づけたので、今回は村上春樹氏の代表作「羊をめぐる冒険」をサンプルに「村上春樹作品から村上春樹たる部分(村上節)を抜き取ったらただの読みやすい話と化す」ことを実証していきたい。
なお、サンプルとして使用している「羊をめぐる冒険」はこちらからどうぞ。
いかにも春樹氏っぽい文章を言い換えてみよう①
まずは、情景描写の場面から。
前後の文脈はまるで無視して、その部分のみを一般的な文章に言い換えてみよう。
部屋は一種不可解な沈黙に覆われていた。広い屋敷に入ると時折これに似た沈黙に出会うことがある。広さに比べてそこに含まれる人間の数が少なすぎることから生ずる沈黙だ。しかしこの部屋を支配している沈黙の質はそれともまた違っていた。沈黙はいやに重く、どことなく押しつけがましかった。
(上巻P.182-183)
ここではつまり何が言いたいかというと、部屋の中の沈黙が重すぎるし、相手は意図的に黙ってるんだということが分かる、ってこと。
では自己流で言い換えてみよう。
僕も相手も押し黙ったままだ。
たとえば、広いお屋敷に少人数で入ったときにも同じような沈黙を体験するが、それとは少し違う。
相手はわざと黙っているようだった。
はい、何の特徴もない文章ができあがりました。
おもしろくもないので次いきます。
いかにも春樹氏っぽい文章を言い換えてみよう②
つづいて会話部分にまいります。
原文はこちら。
「閉鎖された耳についてもう少しくわしく教えてくれないかな?」
「閉鎖された耳は死んだ耳なの。私が自分で耳を殺すの。つまり、意識的に通路を分断してしまうってことなんだけど・・・わかるかしら?」
「耳を殺すというのは、耳が聴こえなくなるということ?」
「ううん。耳はちゃんと聴こえるの。でも耳は死んでいるのよ。あなたにもできるはずよ」
(上巻P.65-66)
ここだけ抜き取ると本当に意味が分からない会話ですので軽く状況を説明しておくと、彼女の「耳」に惚れた主人公が、彼女をディナーに誘い、なぜいつも耳を隠しているのかを尋ねるシーンである。
彼女は「耳」のモデルであるが、いつも撮影のときに見せている「耳」は閉鎖された耳であるという。
そんな二人の会話を、ちょっと現実的に言い換えてみよう。
「閉鎖された耳?ちょっと意味がわからないんだけど」
「つまり耳だけ死んでいる状態ってこと。耳があるということを忘れてしまうだけ。わかる?」
「じゃあつまり、聞こえなくなるってこと?」
「ううん、音は聞こえるんだけど、耳だけ死んでいる状態なの。あなたにもできるでしょ?」
えーと、つまりなんでしょう。
耳が死んでいるってことですね。
うんうん、よく分かるよ。
分かりすぎるから、一周回って意味不明だよ。
もう結論に達してもいいものだと思う
もう何カ所か検証しようと思ったのだが、結局おなじようなことしか言えないと気付いたのでここでやめておこう。
さて、ここまで読んでいただいた勘の良い方はお気付きのことと思うのだが、村上春樹氏の文章がなぜ難しいと言われるのかというと、ただ単に説明が長いからである。
説明が長い、つまり言い換えれば無駄が多いということであるが、その無駄こそが春樹氏の文章の愛すべきところで、それがなくなるとつまらない平凡なストーリーへと後退してしまう。
この愛すべき無駄こそ、村上節の最大の特徴であろう。
俗に「ハルキスト」と呼ばれる村上春樹信者たちにとって、この中毒性のある無駄を読むことこそが喜びであって、それ故に一度その魅力に取り込まれてしまうと抜け出せなくなるのである。
難しいことが問題ではない、好みの問題である
最後に、まとめとして言いたい。
村上春樹氏のはなしは、決して難しくはない。
読みにくいと感じる人が多いのは、独特な言い回しと無駄が多いからである。
しかし、その無駄を取り除いてしまっては作者が「村上春樹」である必要性がなくなってしまうのだ。
村上春樹が苦手だというそこのあなた、一度「無駄」を体験する気持ちで読み切ってほしい。
難しいことは何も言っていないのだから、きっと最後まで読めるはずだ。
最後まで読んでもそのおもしろさが分からない場合には、単純に相性の問題であるのでそのときは諦めて、そっと他の作家さんの小説に手を伸ばそう。
読むか読まないかは、あなた次第。
村上春樹大ファンのわたしからは以上だ。
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